今回紹介するのは、秋里 和国 さんの【眠れる森の美男】です。
研修医としてニューヨークに行くことになった女嫌いの青年医師・友井 久嗣(ともい ひさつぐ)は、外科部長・リチャード・ステイン(リヒャルト・シュタイン)に出会い、「自分の中に眠るもう一人の自分」の存在に気づく。
この作品が発表されたのは1986年。
当時はまだ「BL」なんて言葉もありませんでした。
「BL」というよりも「ゲイの世界」と言った方が正しいかもしれません。
性的な描写はほとんどなく、ストーリー重視。
コミカルに描かれながらも考えさせされる時代背景。
最近のBLが好きな人には物足りないかもしれません。
けれど逆を言えば、BLが苦手な人でも抵抗なく読める作品です。
自分がゲイだと気づき、付き合い、そして別れ。
こうした作品があったからこそ、今の「BL」があるのだと思います。
今から30年以上も前ですが、まったく古臭さを感じないのが凄いです。
ネタバレを含みますのでご了承ください。
【眠れる森の美男】のあらすじ
友井 は大学時代、後輩の 山村 雪弘(やまむら ゆきひろ)にキスをしたことがあった。
けれど、なぜ自分がそんなことをしたのかわからずにいた。
ニューヨークに渡った 友井 は、同僚に「ドクター・ステイン に似てる」と言われ、気がつくと リヒャルト を目で追うようになっていた。
ある日、リヒャルト とバーで飲んでいた 友井 は酔いつぶれてしまう。
翌朝、リヒャルト からキスをされたことをきっかけに、自分がゲイであることに気づく。
【眠れる森の美男】の感想
- 友井 が自分がゲイだと気づいたときの描写
- 友井 が乙女
- 大人なBL
友井 が自分がゲイだと気づいたときの描写
- 友井 が リヒャルト からキスをされたコマから再び眠りにつくコマまでの間。
- 病院の一室で、友井 が リヒャルト から机越しにキスをされ、そのまま部屋の片隅に追い込まれるカット。
- 友井 が一人、リヒャルト の家へと向かうシーン。
一切のセリフもモノローグもない。
音もなくただ静寂だけが広がっている。
「頭が真っ白」「何も考えられない」というのは、こういうことなのかもしれない。
読者を納得させてしまう、その描写力が実に見事!
友井 が乙女
「人のヒゲをそるのが好きでね」と言った リヒャルト に
「ここでヒゲをそられてるには、わたしで何人め?」って聞いたり、
「わたしを愛してるのか、体だけが目的かも」と疑ったり、リヒャルト の浮気相手に嫉妬したり。
友井 の表情や仕草、思考がとっても乙女で愛らしい。
ダンスパーティーの時は、リヒャルト に「幼稚園のガキじゃあるまいし」って言われてたけど、私にはワンコに見えました(笑)
このときの不貞腐れた 友井 が、ホントにカワイイ。
男子校時代の男にモテてたエピソードや 雪弘 への接し方は、どちらかというと「攻め」な感じなのだけど、それは「目覚める前」だからなのかな。
オシャレで大人なBL
世界観やセリフの言い回し、どれを取ってもオシャレで大人な世界。
特に後半は、時代設定が1982年だということに「ハッ!」とさせられます。
ネタバレになってしまうけれど、エイズ患者が初めて発見されたのが1981年。
当時はゲイ特有の病気だと言われていました。
だから リヒャルト の決断に納得はする。
納得はするけども、友井 の叫びにも納得する自分がいる。
感情が忙しい。
こんな作品、ほかにもあるだろうか。
「奇病がこわくておカマがほれるか!」と「愛していたよ」は名言だ。
リアルタイムで読んでいた読者は、このラストにどんな感想を持ったのだろう。
【眠れる森の美男】のあらすじと感想:まとめ
自分がゲイであると自覚し、一瞬の戸惑いはあるものの何となく腑に落ちて納得する感じは、リアルな描写なのではないだろうか。
そして、友井 がまだゲイに目覚めていなかったにもかかわらず、その素質があると見抜く リヒャルト もまたリアルなのだろう。
私にはゲイの知り合いはいないので憶測でしかないのだけど。
オシャレで大人なゲイの世界、アナタもちょっと覗いてみませんか?
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